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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(オ)1214号 判決

島根県益田市大字遠田三七三三番地の一

上告人

渡辺憲次

同県那賀郡江津町大字郷田三三三番地

上告人

三浦由孝

同所同番地

上告人

三浦庸靖

右法定代理人親権者父

三浦由孝

同母

三津道子

右三名訴訟代理人弁護士

中山義郎

三宅清

同所八一三番地の一

被上告人

江津産業株式会社

右代表者代表取締役

室崎勝造

右当事者間の不動産所有権移転登記手続並不動産所有権確認等請求事件について、広島高等裁判所松江支部が昭和二八年九月二五日言渡した判決に対し、上告人等から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

理由

上告人代理人中山義郎の上告理由について。

証拠を措信しない理由は判決にこれを説示するを要しないことは、当裁判所の判例とするところである。(昭和二五年(オ)第一五号同二九年二月一八日第一小法廷判決)上告人三浦由孝は、本人として本件第四目録記載山林四筆を、上告人庸靖の法定代理人として第一目録記載(一)乃至(九)及び(十六)の不動産を本件売買契約により、被上告人に売渡したものであつて、所論のように本件売買に無関係な第三者でないことは原判決の確定するところであるから、上告人三浦由孝は、本件不動産の所有権が被上告人に属することを争う以上、被上告人は、同上告人に対し右物件が被上告人の所有に属することの確認を求める利益を有することは明らかである。

その余の論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

昭和二八年(オ)第一二一四号

上告人 渡辺憲次

同 三浦由孝

同 三浦庸靖

被上告人 江津産業株式会社

上告代理人中山義郎の上告理由

第一点

原判決理由中(2)の点に付いては採証の法則に反し、且理由不備の違法があると信ずる。

即ち同判決理由(2)に依れば「第一審被告渡辺憲次、三浦庸靖代理人及び第一審被告三浦由孝提出援用の証拠中当審に於ける北風安一郎の渡辺憲次の物件が十筆あり、それは憲次の所有物件として売買があつた江津産業株式会社は金を払はぬから三浦は契約解除したと云ふ報告があつた、三浦より会社の金払が悪いことにつき仲介の労をとつてくれと依頼があつた旨の証言部分、当審に於ける証人高橋寿美の売買契約書(甲第一号証)に売主渡辺憲次、売主兼代理人三浦由孝となつておるか売主は渡辺憲次と言ふことで契約が出来た、三浦が憲次の代理人である、江津産業株式会社が本件売買契約の代金をくれないから三浦の方で契約を解除した、三浦の方で委任状を作成して会社の反対履行を待つてゐたが履行してくれないので売主の方では二、三回会社に請求し若し不履行なら契約を解除する旨申込んだと言ふことを二回位聞いたとの趣旨の証言部分、当事者間成立に争のない乙第三三号証中室崎勝造の証言部分、当事者間その成立の争のない乙第五五証中証人高橋寿美の由孝所有の土山を原告会社に売つた代金を五月末迄に払はねばその契約を解除すると言ふことを聞いたことがある旨の証言部分、当事者間その成立に争のない乙第五六号証の一中証人染田順三郎の乙第一六号証は三浦に頼まれて書いたものであるが三浦が交渉した際大体乙第一六号証記載の通りのことをしたことに間違いない旨の証言部分、当事者間その成立に争のない乙第五六号証の二中その記載内容書面の形式体裁等に照し当裁判所に於て真正に成立したものと認める乙第四〇号証中その記載内容は措信し難く他に同代理人及び三浦由孝の当審に於いて提出援用した全証拠によるも原審認定を覆し同代理人及び三浦由孝の主張事実を肯認することが出来ない。されば当審の判断と同一の結論に出た原判決は相当である」と謂ふのであるが、

第一、右上告人等が本件売買契約の残代金不払に基く契約解除を主張する前提となる催告の点に関し被上告人は第一審第二回口頭弁論(昭和二十三年二月十九日附口頭弁論調書参照)に於てその催告の事実を否認してゐるのであるが、被上告会社法定代理人室崎勝造は第一審第八回の口頭弁論(昭和二十三年十二月十六日口頭弁論調書参照)==此の部分乙第三三号証として原審に提出す==には「由孝から本件売買代金請求の内容証明が来たと云ふ事は知つてゐますが私は受取つてゐません」との点と弁論の全趣旨に依れば催告の点は後日当事者間に争なき事実となつたものと推認するのが妥当である。

されば叙上催告の点は証拠に依り判断をするを必要としない争のない事実と解するを相当とするのである。然るに原審が此の点に付き「証拠がなく従つて被上告人に代金支払に付き遅滞の責なく本件売買契約は適法に解除せられてゐない」と論断したのは違法であつて原判決は此の点で破毀せらるべきものと信ずる。

第二、仮に然らずとするも、

事実認定に影響のある証拠を排斥するには単に措信せずとの理由を以て足れりとしないのであつて須らく措信しない理由を説明するか若くは他に肯認するに足るべき理由を判示しない以上採証の法則に違反し且理由不備の違法があると信ずるのであります。

即ち本件契約解除を前提とする催告に関し、上告人は原判決事実摘示及理由に掲記の如き書証及人証を提出してゐるのであるが、原審は前叙の如く孰れの証拠に付いても単に措信せず他に何等の証拠がないから本件契約解除は適法でないと云うのであるが叙上証拠の内特に乙第三三号証は被上告会社法定代理人の供述であり、証人北風安一郎、乙第五十五号証の証人高橋寿美は本件契約の立会人であり、孰れも本件契約、従つてその解約に関しては重大な役目をしてゐる人々であるから本件催告に関する此等の人々の供述を此の点に付いて単に措信せずとして排斥するには須らく措信しない理由を説示するか若くは他に肯認するに足るべき理由を判示するのが当然であつて原審が叙上証拠を排斥し上告人に不利益の判断を為されたのは結局採証の法則に反し且理由不備の違法があると共に旧大審院昭和六年二月十四日判決・法律新聞号外大審院裁判例五巻民事判例九頁、(2)旧大審院昭和五年十一月十三日判決・新報二四四号一六頁――以上孰れも日本判例大成民事訴訟法1三一五頁及三一七頁参照――に反する判断であるから此の点に於て原判決は破毀せらるべきものと信ずる。

第二点

原判決は第一審判決の主文中四に於ける「原告と被告由孝との間に於て別紙第一目録記載(一)乃至(九)及び(十六)の不動産並に別紙第四目録記載の不動産が原告の所有に属することを確認する」との被上告人の請求を認容し此の点の控訴を棄却してゐるのであるが右別紙第一目録記載(一)乃至(九)及び(一六)の不動産は上告人三浦庸靖の所有であるのを被上告人が其の所有権を取得するに至り現に被上告人の所有であることについては本件に於て上告人三浦由孝は何等関知しないところであることは本件記録に徴し明白である。

従つて上告人三浦由孝は叙上不動産の部分に関する限り被上告人との関係に於ては第三者に位置するに過ぎないのである。而して確認の訴を提起するには確認を求むる法律上の利益があることを要し、その法律上の利益がありとするには被告が確認を求むる主体である権利者としての原告の地位に危険を生ぜしむることを要することは確認訴訟の性質上明かである処、本件に於て上告人三浦庸靖は叙上物件が自己の所有なりとして抗争してゐるのであるから、被上告人と同上告人との間に於ては被上告人の権利者としての地位に危険を生ぜしむること勿論であるが上告人三浦由孝は叙上の如く此の点に関しては何等関知せず、従つて之を争ふものでないのであるから被上告人が上告人三浦由孝に対し叙上物件の確認を求むるのは失当であり原審が確認に関する叙上法理を誤り其の請求を認容したのは法律の解釈を誤つた違法があり、原判決は此の点に於ても破毀せられるべきものと信ずる。

第三点

原審の昭和二十七年一月十二日附上告人等提出の準備書面に於て主張する抗弁事実に付いて原判決は何等此の点に付き判断をせられていないのであるから上告人等の抗弁事実につき判断を与えずして判決をなしたるは審理不尽による理由不備の違法なるを免れざるものである。

因て原判決は破棄せらるべきものであると信ずる。

以上

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